はじめに

本書は「リスト」を活用して仕事と人生の質を高めるための本です。本書で言う「リスト」とは、「〜か条」「〜つのコツ」「〜つの原則」「〜訓」「〜戒」といった「箇条書きの形にまとめられた知恵やコツ」のことです。

書籍・雑誌や新聞で、内容を「○○のコツ」として囲みにまとめているのをよく見かけますよね。ブログでも「プレゼンの前に思い出したい10のこと」といったタイトルのエントリー(記事)は人気があります。これらがこの本で扱う「リスト」です。さらに「マーケティングの4P」といったフレームワークも、研修で講師が教えてくれる「挨拶のあいうえお」も、お母さんから教わった「調味料のさしすせそ」も、この本では「リスト」です。

よいリストは人類の財産である

よいリストは役に立ちます。人は昔から知恵をリストにまとめ、語り継ぎ、活用してきました。それらは、「学術的に正しい」かどうかはわからなくても、時の試練を経た(長い期間多くの人によって使われてきた)「経験的に正しい」リストです。

よいリストは貴重品です。網羅性があって、メッセージに深みがあって、それでいてシンプルで、覚えやすい。そのように内容も形式も優れたリストは簡単には生まれません。

まず、作るのが難しい。多くの人が頷くような知恵を見つけて、まとめて、リストに凝縮するには、それなりの思考と表現のスキルが必要だからです。

次に、価値が認められるのに時間がかかる。多くの人がいろんな状況下でその知恵を使い、長い時間をかけて修正されたり拡張されたりしながら、よいリストとしての評価が定まっていくからです。

一つ例を挙げましょう。

  • 聞いたことは、忘れる。
  • 見たことは、覚える。
  • やったことは、わかる。

出典は中国の古典のようですが、日本語としてのリズムがいいですよね。これだけでもハッとする内容のこのリストに、ここに、後世の人がこんな一行を追加しました。

  • 見つけた(発見した)ことは、できる。

より深い理解(できる)にいたる学習方法(発見する)が、リズムを崩さずに追加されています。項目が一つ増えたのに、覚えやすさが損なわれていないどころか、印象が強まって逆に覚えやすくなったくらいです。

本書の前半では、筆者のお気に入りのリストを50個選びました。パラパラと眺めてみてください。考える(やる)べきこととその順番がスッキリ分かり、すぐに仕事や生活の質を高められる、皆さんにとっての「よいリスト」が見つかると思います。

自作リストは人生の財産である

よいリストを選んで使うだけでなく、自分でリストを作ってみることにも大きな価値があります。

  • 【学んだこと】はリスト化によって定着が図れます。リストにまとめるプロセス自体が深い理解を促しますし、できあがったリストは学んだことを思い出す頼もしいツールにもなるからです。
  • 【願いごと】をリストとして書き出すことは、目標達成への確実な一歩になります。リスト化によって目標が言葉として明確になるとともに、それを読み返すことで目標とそこに至る道のりを具体的にイメージすることができるようになるからです。
  • 【信じること】のリストは、自分の羅針盤になります。自分の信条や価値観は書いてみることで具体化し、書かれたリストは意志決定の判断基準として使えるからです。このリストは時間をかけて修正していくもので、長く、それこそ一生、使うことができます。
  • 【やること】のリストつまりToDoリストは、目標を自分の手元に引き寄せる強力なツールです。目標をブレークダウンし、今なすべきこと・できることに集中させてくれるからです。

上記のようなリストは、人類の財産にはならないとしても、皆さんの「人生の財産」になることは間違いないでしょう。本書の後半では、リストの使い方と作り方を解説します。

「リスト化の力」は応用範囲が広い

リストを作ることは、言葉をただ箇条書きにすることではありません。頭のなかでモヤモヤしている何かを言葉として定義し、言い換え、凝縮させていく作業です。したがって、リスト作りの作業を通じて鍛えられるスキルがあります。本書では、そのスキルを「リスト化の力」と呼びます。

リスト化の力

どれも奥の深いスキルです。フレームワーク思考は論理的思考の基礎となる考え方で、典型的にはコンサルタントやエンジニアなど問題解決系のプロフェッショナルが磨いている力です。要約力は社会人一般に要求される力で、書籍もたくさん出版されています。凝縮力(本書の造語です)は、要するに言いたいことにぴたりと合う言葉を選び出すセンスのようなもので、コピーライターが極めようとしています。

しかし本書では、リスト作りのために必要なスキルに絞って、エッセンスだけを学べるようにしています。そしてリスト化の力(フレームワーク→要約→凝縮)は、以下のような力をも高められるという、うれしい副産物があります。

  • 問題を正しく把握し、分析する力
  • メールや報告書を端的にまとめる力
  • 経営フレームワークなどフレームワークを使いこなす力
  • ビジョンやアイデアを言葉として具体化する力

本書の構成と使い方

本書は二部構成になっています。

第一部「珠玉のリスト集」は、リストフリーク(リスト大好き人間)である筆者が厳選したリスト集。見開きページの右側にリストを、左側に解説を配しました。気に入ったリストはコピーして、机の前にピンで留めたり手帳に挟んだりしてご活用ください。

リストは、「内容」と「形式」の2つの基準で選んでいます。多くの人に役立ててもらえるように内容に深みのあるリストを、多くの状況をカバーできるように多彩なテーマから、選びました。またリスト愛好家として、リストの形式がよいことも条件に据えています(何を持って「よい形式」というかは、第二部で)。

第二部「仕事と人生を豊かにするリスト術」は、リストを収集するだけでなく自分で作って活用する方法について述べています。

箇条書きにまとめたりリストアップしたりといった思考スタイルは、わたし達の仕事や生活に深く浸透しています。しかし、リストがあまりにも「日用品」であるためか、よいリストとは何か・それをどう作り活用するかについて分かりやすく論じた本はありません。

本書でご紹介するリストやリスト化のコツによって、リスト作りから得られるものがさらに深まり、作ったリストへの満足がさらに高まり、結果として皆さんの仕事と人生がさらに豊かになることが、筆者の願いです。

*ListFreakというサイトについて

本文中、*ListFreak(リストフリーク)というサイトに触れている部分があります。

ListFreakは2005年11月に開設したリスト収集・共有サイトです。この本は、*ListFreakがきっかけで産まれました。詳しくは、「おわりに」で。

*ListFreak – 世の中の知恵やコツを「リスト」で共有するサイト
https://listfreak.com/