- 謙虚さ……偉大な思想を学び、それらの思想を背景とすることで、自分自身や自己の仕事を過大評価しない態度を保つ。
- 人間性……人間の本質に対するより深い理解を得る。
- 柔軟性……日進月歩の科学に囲まれた社会に住むわれわれは、さまざまな場で、新しい考えや技術を見つける必要性に直面する。
- 批判精神……さまざまな事象に対する多様なアプローチの可能性を知ることで、これまでに得た知識や自己の理解を批判的に考察し直す。
- 広い視野……広く深く学問を学ぶことはむずかしくても、幅広く学問を学ぶことで、自らの体験をより広い視野から考える。
- 倫理的・道徳的問題の理解……さまざまな場で求められる行動や意志の決定に関して、倫理的・道徳的な問題としてとらえる。古典と自らの思考の経験によって、知識と経験に基づく判断力を活用する。
解説
ハーバード・カレッジの学長を務めたヘンリー・ロソブスキー(Henry Rosovsky)氏が、大学における教養課程の目標として、上記の資質の涵養を挙げたそうです。見事なリストです。国内外の著名な大学の教育目標もざっと見てみましたが、これだけの幅と汎用性と深さを備えたリストは見つかりませんでした。
どれも重要だと思いますが、とりわけ最後の項目に注目したいと思います。というのは、個人として、あるいは組織人として行っていく選択に、倫理的・道徳的な視点を加えることが、現在求められているからです。このリストによれば、倫理観・道徳観は、おもに古典と内省によって育まれると理解しました。
そこで思い出されるのが、近江商人の「三方良し」すなわち「売り手良し、買い手良し、世間良し」というモットー。古典であり、商人の内省基準でもあります。
「自分良し」でなく「世間良し」としたところに、商人の倫理を感じますね。
引用元
鈴木 健、竹前 文夫、大井 恭子編『クリティカル・シンキングと教育―日本の教育を再構築する』世界思想社 2006年