フレームワーク思考とは
フレームワーク(枠組み)思考といっても特別な思考法があるわけではなく、考える態度を表した言葉です。
一言でいえば「全体と部分の関係を構造的に捉えようとする考え方」。例えば以下のように考えるということです。
- この問題はどのように分解できるか?抜け漏れなく分解できて、かつ分解した要素どうしが重複しないような切り口は何か?
- あるテーマを分かりやすく説明するためには、何をどういう順番で言えばいいか?
わたしが最初に学んだ「フレームワーク」は、情報システムに関するフレームワークでした。ITの世界はフレームワークに溢れています。企業の情報システム全体にも、その中の1システムにも、その中の1アプリケーションにも、汎用的な構造としての「フレームワーク」があります。
その後仕事の内容が変わるにつれ、経営フレームワークを学びました。フレームワークといっても、情報システムのそれに比べれば大雑把なものです。シンプルなリスト形式であるものも少なくありません(本書でもいくつか紹介しています)。しかしシンプルではあっても、フレームワークは特定のテーマについて「何を」「どのように」考えるべきかについての強力なヒントを与えてくれます。
「順序」「段階」「分解」でリスト項目の材料を洗い出す
ではフレームワーク思考を使ってどのようにリスト項目の材料を洗い出していったらよいか、ひきつづき内田さんの「セールスのコツ」を題材に考えていきます。
テーマに合ったフレームワークを考えつくための考え方も色々ありますが、リストを作るうえでは「順序」「段階」「分解」というキーワードを覚えておけばよいと思います。
順序は、文字通りものごとや行動の順序・順番・ステップです。「調味料のさしすせそ」は調味料を入れる順序を、「起承転結」は話の順序を示しています。セールスの順序を考えてみると、こんな項目を考えることができます。
- 【準備】訪問リストを作るときのコツは?
- 【訪問】訪問するときのコツは?
- 【商談】商談のときのコツは?
- 【フォロー】商談のあとのコツは?
(業界、業種、企業、個人によって順序はさまざまです。一例としてお読みください)
内田さんは【列挙】のステップで作った自分の「思いつきリスト」と比較して、
「自分のコツは、商談に関することばっかりだな」
「たしかに訪問前の準備にも『コツ』がたくさんあるが、見逃していた」
ということに気がつかれるかもしれません。「セールスのコツ」と呼ぶには考えの範囲が狭かったということです。ここで
「自分は『商談のコツ』をまとめたかった」
ということに気がつけば、タイトルを変えればよし。もしそうでないならば、上の問いに答えながら考えることで、「セールスのコツ」にふさわしい幅を持ったコツを収集することができます。
可能であれば「順序」をもっと細分化してみます。たとえば【商談】の中にも踏むべきステップがあり、それぞれのステップで自分のコツを考えることができます。「挨拶−ヒアリング−提案−詰め」といった、一回の商談の中の順序を考えてもよいですし、下で紹介する「段階」「分解」で細分化していっても構いません。順序が細かくなれば思い出せるコツも増えていきます。
いまは「問い」を出すために順序を考えているので、厳密に細分化する必要はありません。順序といっても、ものごとは一直線では進まないもの。同時並行の仕事があったり、分岐があったり、箇条書きでは書きづらいケースもあると思います。書きやすいように書いてみてください。
段階は、ものごとのステージ。状態の移り変わりによる分け方で、前の段階を経ないと次の段階には行けないところに特徴があります。第1章で紹介した「守破離」は「段階」です。順序の一部のようなものですが、「望ましい状態へのステージは?」と考えると項目が出やすいので、分けておきます。
例として、セールス全般ではなく商談のシーンに絞ったフレームワークですが、聞き手の心理的な段階を表現したリストを一つご紹介します。
セールスで乗り越えるべき4つの「不」の壁
- 不信:話し手のあなたが信用できない
- 不要:(信用はできたが)その商品は自分には必要ない
- 不適:(必要であると感じたが)あなたの売っているそれではない
- 不急:(それで良さそうだが)急いで買う必要はない
この4つの壁を乗り越えるには?という問いを発することで、自分の中からコツを引き出せるでしょう。
分解は、まさに全体を部分にどう分けるかということ。順序も段階も、分解といってしまえば分解です。
※ロジカルシンキングの本を読まれたり研修を受けられた方はMECE(ミッシー、Mutually Exclusive & Collectively Exaustiveの頭字語)という言葉をご存知のことと思います。上述した「抜け漏れなく分解できて、かつ分解した要素どうしが重複しないような切り口」の状態を指します。MECEは分解のできばえをチェックするときの合言葉です。
たとえば「仕事のコツ=営業力を高めるコツ」と解釈して、「営業力」を分解してみるとどうなるでしょうか。これは様々な角度から考えることができますね。例えば以下のような分解を思いついたとしましょう。
- 【仕事力】職業スキルを高めるには?
- 【人間力】人格・人脈を磨くには?
- 【商品力】良い商材を見つける(割り当ててもらう)には?
内田さんは自分が書き出したリストを見て、 「『体力』『根性』も営業力に入れたんだけど、どこに入るのかな…」 という発見をするかもしれません。そのときは、例えば【人間力】の解釈を広げてもいいですし、あるいは他の分解の仕方を考えてみてもいいでしょう。「自分の営業力は何から成り立っているのか?」と考えることは、営業の基礎体力を高めるためにも役に立つと思います。
考え続けていると、関連する情報に敏感になります。内田さん、たまたま雑誌で「仕事はヘッドワーク+フットワーク+ハートワークだ」という言葉を見かけたとします。これもまた良いフレームワークです。 「これなら『体力』『根性』はフットワークに入りそうだぞ!」 ということで、これを借りて書きなおしてみましょう。
- 【ヘッドワーク】職業スキルを高めるには?
- 【フットワーク】「体力」「根性」、そして行動力を高めるには?
- 【ハートワーク】人格を磨くには?
- 【商品力】良い商材を見つける(割り当ててもらう)には?
「…あれ、『人脈』が漏れてしまった」
もうひとがんばり考えてみましょう。ワークつながりで、「ネットワーク」なんていう言葉を思いつくかもしれません。
- 【ヘッドワーク】職業スキルを高めるには?
- 【フットワーク】「体力」「根性」、そして行動力を高めるには?
- 【ハートワーク】人格を磨くには?
- 【ネットワーク】人脈を築くには?
- 【商品力】良い商材を見つける(割り当ててもらう)には?
「全体と部分の関係を構造的に捉えようとする」感じがつかめたかと思います。納得のいくフレームワークができたら、それぞれの問いに答えながらコツを洗い出していけばいいのです。
分解の仕方は一通りではなく、様々な角度から考えられるということを、再度強調しておきます。営業力でいえば、 「読む力/書く力/聞く力/話す力」 「インプット(情報収集)/プロセス(付加価値)/アウトプット(提案)」 などなど、さまざまなフレームワークが考えられます。ここではリスト化したい項目を洗い出すのが目的ですので、いろいろ試してみてください。
常にフレームワーク思考をするべきなのか?
目的はあくまで、タイトル(リスト化したいテーマ)に見合った幅で項目を洗い出すことであり、フレームワークありきで考える必要はありません。
例えば第一部で紹介した「よい人間関係を築くための10カ条」。この「人間は○○なものである」という10の文が人間のすべてであるとも思えませんし、そもそも全体を掴むための枠組みが見えません。フレームワークとしてみるとよいフレームワークとはいえないということです。それにも関わらず、このリストにはとても説得力があります。この10個はたしかに良い人間関係を築くための基礎だなと、直感的に納得できます(もちろん11個め12個めを加えたい人もいるでしょうが)。
また、「はじめに」で書いた「挨拶のあいうえお」も「調味料のさしすせそ」も、「全体と部分の関係が構造的に捉えられているか」というと、そうではありません。しかし生活の役には十分立ちます。「考え方や行動の枠組み」として機能するならば、必ずしも網羅的である必要はないということです。
個人的な経験からいえば、深く思っていたこと、前から考えてきたことをリスト化するときには、ただ列挙するだけで十分と感じることが多いです。考えを重ねることで、自然とタイトルと内容が合ってきていたということでしょうね。そうではなく、自分の中から学びを引き出したり、モヤモヤしたことを整理してみようとするときには、フレームワークを意識して洗い出すとよいようです。
【列挙】と【分析】のステップをあわせて整理すると、リスト項目の材料を洗い出すためのアプローチは以下のようにまとめることができます。
リスト化したい項目を洗い出すための4つのアプローチ
- 列挙 納得できるまでとにかく挙げてみる
- 順序 ステップに分けて考える(例:起承転結)
- 段階 ステージに分けて考える(例:守破離)
- 分解 MECEであるように分けて考える(例:心技体)