リストを作るための8つのステップを定義したところで、次によいリストを作るための頭の使い方について考えてみましょう。
よいリストを作るための3つの力
リスト化とは「集めて、束ねて、固める」ことです。よいリストを作るための力も、おおむねこれに呼応する形で下記のように定義できます。
よいリストを作るための3つの力
- 「フレームワーク思考」。リストのテーマに合った項目の候補を洗い出したりリスト項目を構成したりする、論理的な思考力です。
- 「要約力」。重要なメッセージを抽出して簡潔な表現にまとめる、論理的な思考と表現の力です。
- 「凝縮力」。要約された文章をより印象的な言葉に凝縮する、感性的な表現の力です。
上の3つの力が「リスト化の8ステップ」のどこで使われるかを表にまとめました。
リスト化のステップ | スキル | 脳 | |
---|---|---|---|
1.【定義】テーマを掘り下げ、自分の思いを見い出す | 両 | ||
集める | 2.【列挙】リスト項目を思いつくかぎり挙げてみる | 右 | |
↓ | 3.【分析】リスト項目を論理的に洗い出す | フレームワーク思考 | 左 |
束ねる | 4.【構成】リストの流れを決める | フレームワーク思考 | 右 |
↓ | 5.【要約】材料を束ね、リスト項目をまとめ上げる | 要約力 | 左 |
固める | 6.【凝縮】文の「密度」を高める | 要約力 | 左 |
↓ | 7.【修辞】読みやすさ・思い出しやすさに配慮する | 凝縮力 | 右 |
8.【再定義】テーマを貫く「思想」を見い出す | 凝縮力 | 両 |
ここで言いたいのは、よいリストを作るためにはまず3つの力を身に付けようということではありません。リスト化の8ステップを実践するうちにこういったスキルが身につくということです。
リスト作りは全脳作業
理詰めで詰めていくだけでは、リストは印象的になりません。直感でまとめていくだけでは、内容が濃くなりません。よいリストを作るためには、さまざまな思考の「モード」を組み合わせていく必要があります。このことを脳の機能から見るとどうなるでしょうか。
2005年にアメリカで出版された”A Whole New Mind“(邦訳『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』)は、働く個人の強みが専門性から総合力へとシフトしていくことを主張した本です。多くの知識労働者の共感を呼んだこの本で、著者ダニエル・ピンクは左右の脳半球の役割分担について神経科学の知見をまとめています。
それによれば、左右の脳はほとんどいつも協力して活動しています。ただし以下のようなはたらきの違いがあります。
「左脳と右脳:4つの相違点」
- 左脳は右半身を制御し、右脳は左半身を制御する
- 左脳は「逐次的に」処理し、右脳は「全体的、瞬時に」処理する
- 左脳は「文」を、右脳は「文脈」の処理を得意とする
- 左脳は「詳細を分析」し、右脳は「大きな全体像」として捉える
(『ハイ・コンセプト』)
左右の脳には優劣はありません。しかしこれまでは左脳主導の思考(ひとつずつ、連続して、分析的に)が重んじられてきました。
著者は、米国や日本のように豊かで労働コストが高い国で働く個人が今後とも競争力を維持するためには、両方の脳の活用が欠かせないとしています。その根拠として、左脳主導思考による仕事はコンピュータや海外の安い労働力に置き換えられるリスクが高いこと、製品やサービスの価値が左脳主導思考の産物である「機能」などからよりソフトな「デザイン」などに移っていくことなどを挙げています。
では「リスト化の8つのステップ」は、左右どちらの脳が主導しているのでしょうか。上記の相違点をもとに、敢えて分類してみた結果を表(右列)に示します。右と左をかなり行ったり来たりしており、リスト作りは両方の脳の思考モードを使う作業であることが分かります。時にはロジカルに、時にはアーティスティックに、さまざまな角度から考えることでリスト作りも楽しくなりますし、リストの出来もよくなります。
次ページから「リスト化の8つのステップ」をひとつずつ解説していきますので、ぜひ楽しんで、そして試してみてください。
例題を作るために内田さんにご協力いただきます。内田さんは中堅のシステムインテグレータの営業部門に勤務しています。新規顧客開拓担当マネジャーとして、市場調査をし、訪問先を洗い出し、基本契約を取りつけるところまでが担当です。
内田さんは、社会人年齢で10歳になったのを期に、自分なりに掴んだ仕事のコツをまとめて「セールス○か条」を作っておこうと考えています。こういうリストがあればふだんの仕事にも役立ちますし、部下とも共有しやすくなります。また転職にあたっても、自分なりに仕事から得たものを簡潔に語れることは重要だと考えています。