ToDoリスト(やることのリスト)は、本書の対象である「箇条書きになっている知恵やコツ」ではありません。しかしリストの名をタイトルに冠しておいてToDoリストに触れないわけにはいきません。タスクの管理よりももう少し高いレベルで、わたしがどのようにToDoリストをマネジメントしているかをご紹介します。
ほんとうに大事なことを見極めるQTAリスト
QTAリストとは、自分への問い(Questions To Ask)のリスト。どのような問いかといえば「ほんとうに大事なことは何か」を考えさせる問いです。
やりたいことはいつも、実際にやれることよりも多いもの。QTAリストは、ToDoリストに載せるべきものを選ぶ基準となります。このリストを作るには、日ごろから「自分のこれからを思わず考えさせられた問いかけ」を収集しておきましょう。たとえば岡崎太郎さんの「グレート・クエスチョン」は、QTAリストです。
人生の方向性を考える、9つのグレート・クエスチョン
- あなた今の会社で一生働きますか?
- あなたは資産が10億円あっても、今の仕事を続けますか?
- 10年後も今の会社に在籍していますか?
- 5年後あなたは、やりたい仕事ができているでしょうか?
- あなたは死んだら、どんな人だったと思われたいですか?
- 今あなたが職を失い、あなたが今その資産を失っても、もう一度チャレンジする勇気と気力がありますか?
- セミリタイアがしたいというけれども、リタイアした生活を10年続けられますか?
- 20年後も、その問題はまだ問題ですか?
- もし余命が一年と宣告されたら、あなたは今の仕事を続けますか?
わたしからもすこし追加しておきましょう。
- 今のペース、今の環境、今の自分の成長に満足か?
- どこまでやったら、今の仕事を「卒業」してもいいと思えるだろう?
- 今後10年間でどうしても達成したいことがあるとすれば、それは何か?
- 何かにチャレンジするとしたら、そのタイミングはいつか?
QTAリストには少々「重い」問いが並ぶことになりますので、毎日読み返す必要はありません。ときどき読み返せば十分です。その都度答えが違う、答えが出ない、そういうこともあるかもしれません。しかしこのような問いのリストを持つことには、以下のような効果があります。
生産性が上がります
ToDoをこなしながら「こんなことやっていていいんだろうか…」という不安が出てくるようでは生産性が下がりますよね。QTAリストによって、方向性や目的といった大きな疑問を考える時間を別に取ることで、ToDoへの集中力を高められます。
ToDoリストに意味を与え、質と量を最適化します
QTAリストを読み返すということは、仕事の意味を問い直すことでもあります。もしかしたら、現在のToDoリストの順位が大幅に入れ替わる、あるいはばっさりと減ることになるかもしれません。
自分のブレ、成長、迷いに気がつきます
いったん方向性を見出したような気持ちになっても、環境が変わればまた迷うもの。 「この間答えられた質問に答えられない」、あるいは逆に 「この間答えられなかった質問に答えられるようになった」という 経験を通じ、良くも悪くもそういう自分のブレに気がつきます。
幸運の女神の前髪をつかむCouldDoリスト
「幸運の女神には前髪しかない」といいます。前髪しかない女性はちょっと想像しづらく、会ったらがっかりしそうな気もしますが、要するに自分にとって好ましい「刺激」に出会ったら、素早く「反応」する必要があるということです。
刺激は友人との会話かもしれません。本かもしれません。知人からの相談かもしれません。また、「ちょっとヒマができた」ことだって、捉えようによっては刺激です。
それらの刺激に出会ったとき、それに反応するのか、やり過ごすのか。 反応するのであれば、どちらの方向にどれくらい強く反応するのか。 その判断に時間が掛かってしまうと、女神の前髪を掴み損ねることになります。
そこで、「幸運の女神の前髪を掴むコツ」をまとめてみました。
幸運の女神の前髪を掴むコツ
- 刺激を受けたときに、それを評価する基準を明確にする
- その基準に則った、反応のオプションを多く持つ
- そのオプションを実際に選択できるだけの余裕を持つ
話を分かりやすくするために、起業する友人がサラリーマンのあなたに創業メンバーに入ってくれないかという相談をしてきたと仮定しましょう。
1. 刺激を受けたときに、それを評価する基準を明確にする
刺激に対する判断の基準とは、自分のポリシーです。それを自覚できれば、反応速度が高められます。そのためにはQTAリストや「【意志決定】困難な選択を乗り越える」で紹介したような「ありたい自分」のリストが有効です。
2. その基準に則った、反応のオプションを多く持つ
友人の誘いは、自分の独立心を満たしてくれるという点で前向きに反応したいチャレンジであったとします。しかし反応の仕方は一つではありません。自分も資金を投じて共同経営をしたいと申し出る、今の会社から仕事を発注して協業する、週末だけ手伝う、勉強がてらボランティアで応援する、いっそ自分も独立して業務提携をする…。濃淡はあれ、どの選択肢も「ありたい自分」につながります。
しかし実際問題、刺激を受けてから多様なシナリオを描くのは難しいもの。常日頃から未来シナリオを複数考えておけるといいですよね。そこで、簡便な方法をひとつご紹介します。それは”CouldDoリスト”、つまり「できるかもしれないことリスト」を作ること。時間があったらやってみたいこと、あるいはやってみたら面白いかもしれないことをリストにするということです。
(CouldDoリストという言葉は、ステファン・シャピロの”Goal-free Living“という本から見つけました)
CouldDoリストがあれば、いざ刺激に出会ったときに「こう反応すれば自分のやりたかったことができるのでは?」というアイデアが出やすくなります。
3. そのオプションを実際に選択できるだけの余裕を持つ
さて、反応のオプションはたくさん持てたとしましょう。しかしそれを実際に選択できるとは限りません。時間的・経済的・精神的な余裕がなければ、選択することで生じるリスクに耐えられないからです。
働いていれば時間的な余裕は少ないですし、仕事がなければ経済的な余裕がない。そもそも自分にどれだけ余裕があるかというのは、かなり精神的な問題でもあります。
前述の本には、とてもシンプルで気の利いた表現がありました。それは
「CouldDoリストを大きく、ToDoリストを小さくしよう」
というもの。たくさんの”Could Do”と少しの”To Do”というのは、かなり楽しそうな状態です。一朝一夕には行かないとしても、そういう状態を目指すことで女神の出現に備えられそうです。
夢を掘り起こすUnDoneリスト
ToDoリストには、普通こんなランクがあります。
Aはやらねばならぬこと。Bはやるべきこと。Cは時間が余ったらやってみたいこと。
優先順位の低いCは往々にして未完了に終わり、明日に持ち越しになります。そのうち次の日に引き継がれなくなり、忘れてしまいます。あるいは期限のあることであれば、それを過ぎてしまいます。
そこで、ここ半年くらいを振り返って「未完了に終わったCのリスト」、名付けてUnDoneリストを作ってみませんか。
思いついて、あるいはCouldDoリストから下ろしてきて、ToDoに書き付けたものの、緊急度の高いAやBにはじき飛ばされてしまった「やってみたかった」こと。たとえば、
買いたかった本のタイトル、
何かを調べようと思って控えておいたURL、
行きたかったコンサート、
連絡を取ろうと思っていた旧い友人のメールアドレスなど。
それがUnDoneリストです。
UnDoneリストの中身は玉石混交です。大半は「結局時間を使わずに済んでよかった」ことばかりかもしれません。しかしもしかしたら、繰り返し繰り返しリストに載せて、そのたびに弾かれているチャレンジが見つかるかもしれません。
わたしの例を挙げます。最近本棚を整理していたら、会社勤めを始めたばかりの頃に買った起業マニュアルのような本が出てきたのです。それも似たような本が何冊か。自分でもすっかり忘れていました。
きっと「ちょっと勉強しておこう」と、本を買っては本棚に埋めてきたのでしょう。転職した先のベンチャー企業が事業清算になって、無念の思いで起業したのですが、実は自分がずいぶん前からそういう興味を持っていたことを知って、ちょっと驚きました。
UnDoneリストを作ってみることで、こういった潜在的な願望を拾い上げることができます。意識せずして何回もToDoリストに載せ、こぼれてしまうものがあるならば、実はそれは高い優先順位を与えるべきチャレンジの種なのかもしれません。