組織のビジョンづくりにも、リスト化の力は活かせます。大事なのは、リスト化の作業そのものを共有することです。
まずは「ビジョン」の定義から
組織で共有すべきビジョン、価値観、理念などなど。これらの多くもリストのような簡潔な言葉として表現されています。個人ではなくグループでの作業になりますが、基本的なステップは同じです。
重要なのは、何を作ろうとしているのかに関する合意です。というのは、ビジョンや理念などは言葉が曖昧なため、人によって意味が違い、議論が容易に発散するからです。
典型的には、下記のような切り分けが可能です。
- ミッション・使命・存在意義 ― これができれば会社を解散してもよい、という覚悟を伴った宣言。
- 価値観・理念 ― 行動に際して何を重んじるかという判断基準。
- ビジョン ― ありたい姿を文章などで具体的に描写したもの。典型的には将来のある時点が指定される。
これはあくまでも「典型的」な定義であり、どのレベルで何を宣言し、共有するかは組織にまかされています。たとえば、リッツ・カールトンホテルの有名な「クレドカード」には、「クレド」「従業員への約束」「モットー」「サービスの3ステップ」「ザ・リッツ・カールトン・ベーシック」といった5つのリストあるいは文章があります。どれにどのような意味を込めたのか、いつどれを使うべきなのかはリッツ・カールトンが考え出したものですし、そうであるからこそ容易には模倣できない価値を産み出しているのです。
ビジョンは作りながらビジョンになっていく
以前、あるベンチャー企業のビジョン策定をお手伝いしたときのことをお話しします。
ビジョン策定に責任を持つ経営幹部全員に、いくつかの文を考えてきてもらいました。それらを全員から見えるように書き出したうえで、一つ一つの言葉を吟味していきました。
「大紛糾」しました。たとえば「ウチは○○の会社だ」という抽象的なレベルでさえ、意見が一致しないのです。「○○は手段であって目的じゃない」「今は○○だけど将来は脱○○を目指すべきだから、ビジョンに使うべきではない」などなど、実にさまざまな言葉が飛び交いました。
結局予定時間内には収束せず、ファシリテーションとしては失敗でした。しかしこの会議自体は好評で、むしろ参加者を広げて行おうということになりました。というのは、このプロセス自体が非常に有益であったからです。
この仕事は私にとっても大きな学びになりました。各人の思いの最大公約数を束ねても、組織のビジョンにはなりません。
どの言葉を選ぶか。その言葉にどれほどの意味を込めるか。その過程で共有される将来イメージこそが組織のビジョンです。そのためには、以下のようなステップで考えるとよいのではないでしょうか。
組織のビジョンを作り、共有するステップ
- 大事な言葉を【列挙】し尽くす
- その上でいろいろな角度からの【構成】【要約】を試みる
- 多くの人を巻き込んで【凝縮】し、各人にとっての言葉の意味を濃いものにする