【プレゼンテーション】リスト化こそプレゼン準備の極意

プレゼンテーション(スピーチや講演を含む)の構成づくりは、まさに「覚える要約型リスト」づくりそのものです。またスライドを使うプレゼンテーションであれば、箇条書きで要点を説明する機会も多いと思います。そこでももちろん、リスト化の力が活用できます。

全体の構成:ローマ時代から変わらぬ、黄金の方法

まずは、ローマの雄弁家キケロと弟子の会話をお読みください。キケロはメモを一切見ずに、何時間でも即興で演説をすることができたと言われています。

キケロ:「私がどうやって長時間、メモを見ないで、理路整然と話せるのか知りたいというのだな。今日、私が話しながら広場をどのように歩き回っていたか、おぼえているだろうか」

弟子:「もちろん覚えています。すべての聞き手に向かって話をするために、そうされていたのでしょう」

キケロ:「それもあるが、もっと重要な理由がある。私は広場の端を歩きながら、6本の円柱の前でそれぞれ少し立ち止まった。あの6本の円柱が記憶を助けてくれたのだ。円柱1本がアイデアの束を表している。それを見て、該当するアイデアを思い出すようにするのだ。そうすれば、何十もの事柄を詳しく記憶する必要はない。わずか6つのカギとなるアイデアを思い出せば、関連する情報は自然に引き出せる」

キケロは、集めたアイデアを「束ねて」、「固めて」、円柱を作って、話す場所に置いていたのです。このエピソードはジェリー・ワイズマンの『パワー・プレゼンテーション』から引用しました。残念ながらこの会話は著者の創作で、くだんの雄弁家がキケロかどうかも分かっていません。しかし、似たような話は聞いたことがあるでしょう。

ダグ・マルーフは『最高のプレゼンテーション』(第1部で「TREES ― 聴衆の質問に答えるときの心がけ」を引用した本)で、プレゼンテーションを5つのりんごの実がなっている木に例えています。伝えたいことは5つにまとめてぶら下げておけということです。

「6本の円柱」、そして「5つのりんごの実」の意味するところは明らかです。そう、あなたの主張を「リスト化せよ」ということです。

わたしも、プレゼンテーション・講義・講演など1対多で話をするときには、テーマに沿ったリストを必ず作ります。

リストは、聞き手が話の構造を理解するのに役立ちます。「話」は、聞くにせよ読むにせよ、一言ずつたどって理解する性質(線状性)のものです。聞き手は、何か手掛かりをもらわなければ、話の構造が見通せません。物語であれば、この見通しの悪さが強い武器になるのですが、プレゼンテーションでは聞き手がイライラしかねません。

そこで、話の構造を見渡すための地図として、リストを先に相手の頭に入れておきます。「今日お話しするのは、この4つです」という冒頭の一言がどれほど聞き手を安心させるか、人前で話す機会の多い方は実感されていることと思います。

個々のスライド:十分な論理チェックを

Microsoft PowerPointのようなプレゼンテーションソフトを使う場合、典型的には、上で考えた構成に沿って、スライドごとにメッセージを箇条書きにまとめていきます。

しかし、この箇条書きがしばしば分かりづらい。スライドを見ながら説明を聞いていたときには分かったのに、後で資料だけを読み返すと、なんだか納得度が下がったことはありませんか。「箇条書きはビジネスプレゼン最大の問題」という人もいます。これはなぜでしょうか。

いくつか理由はありますが、最大の問題は、おそらく「論理展開が曖昧になりがち」なところにあります。

例えば、サンダーバーズという野球チームを評したスライドがあったとしましょう。

圧倒的に強いサンダーバーズ

  • ベテラン揃いの投手陣
  • ホームラン打者揃いの重量打線

特に分かりづらくは感じませんね。しかし、箇条書きの部分を変えずに、

疲れの見えるサンダーバーズ

  • ベテラン揃いの投手陣
  • ホームラン打者揃いの重量打線

と書いても、

バランスを欠いたサンダーバーズ

  • ベテラン揃いの投手陣
  • ホームラン打者揃いの重量打線

と書いても、なんとなく意味は通じてしまいます。いく通りもの主張が導けてしまうのは、根拠(情報か、その解釈か、またはその両方)が十分でないから。

二番目(疲れが見える)は、「ベテラン」「重量」という辺りから、「選手の高齢化」を指摘したいのでしょうか。そうであれば、選手の年齢分布などの情報を追加すれば言いたいことがはっきりします。

三番目(バランスを欠いた)は、「ベテラン揃い」「ホームラン打者揃い」という辺りから、「攻守ともパターンが単調になりがち」と言いたいのかもしれません。そうであれば、「揃い」具合を具体的に示せばよいでしょう。

上記のようなシンプルな例だと、上のメッセージと下の箇条書きとのつながりを追うことは簡単です。しかし、箇条書きの項目が5つ6つと連なってくると、聞き手はメッセージとのつながりを追いづらくなる。追えたと思っても、誤解していたりする。聞き手にとって目新しいテーマの場合は、なおさらです。

「このスライドで言いたいことは?」というテーマを考えたうえで「集めて、束ねて、固める」を意識すれば、スライドの質は高まります。やっかいなのは、いちど書き出してしまうと、きれいにまとまっているように見えてしまうこと。万全を期すならば、文脈を共有していない人に聞いてもらい、分かりづらいところを指摘してもらうとよいと思います。