【凝縮】文の「密度」を高める

【要約】のステップで、リスト項目を文章にまとめました。【凝縮】のステップでは、さらに意味合いをはっきりさせ、自分の思いを強く込めるために、言葉を言い換えていきます。

曖昧な言葉をなくす

曖昧な言葉とは、具体的な行動がイメージできない言葉です。例えば「〜に注意する」「〜に気をつける」「〜要チェック」「〜心がける」。

練習問題として、「落石注意」という道路標識を考えてみます。「落石注意っていうけど、落石があったら、いくら注意していてもよけられないよね(笑)」というのは、ドライブの定番の話題ではないでしょうか。

国土交通省のホームページには、以下のような解説が添えられています。

この先に路側より落石のおそれがあるため車両の運転上注意が必要であることを指します。なお、「落ちてくる石(岩)」もしくは「道路に落ちている石(岩)」の一方のみに対して注意が必要であるということではありません。

―「こんな道路標識知っていますか?」 

国土交通省が「『落石のおそれ』によって起き得ることすべてに注意せよ」という書き方をせざるを得ないのは、ある程度理解できます。表現を限定してしまうと「その可能性については注意してくれなかったではないか」というクレームを受ける可能性が高まりますからね。

しかし一ドライバーとしてはどうでしょうか。「『落石注意』に対する心得」として、
「『落石注意』の標識を見たら、落石に注意して通行する」
ではいかにも心もとないですね。そこで、「落石に注意して通行する」という曖昧な言葉を言い換えてみたいと思います。

引用文のうち、「道路に落ちている石(岩)」に注意するというのは明解です。そういう石のあることを予期して運転せよということだと、誰でも分かります。

では「落ちてくる石(岩)」に注意するとはどういうことでしょうか?
・上を見上げながら運転する?
・落石の予兆を探しながら運転する?
どちらも、不可能ではないまでも現実的とは思えません。石が落ちてきてしまったら事実上注意しようがないことを考えれば、次善の策としてそのような事態に遭遇する確率を下げることを心得としておくべきでしょう。その第一は、車を停めないということです。

つまり、
「『落石注意』の標識を見たら、落石に注意して通行する」
は、以下のように言い換えられます。
「『落石注意』の標識を見たら、路上の石に注意しつつ駐車せず通り抜ける」

文字の量としては長くなりましたが、それ以上にドライバーとしてすべき行動が明確になったため、文の密度は上がりました。

このように、「曖昧な言葉をなくす」ためには、具体的な言葉に置き換えていかなければなりません。【凝縮】というステップでありながら、文字の量としては増えてしまいます。 これは、もともとの言葉の意味が薄かったので仕方がないところです。意味が伝わるように文を具体化しつつ、文字が増えすぎないように気をつける。その結果、増えた字数以上に「密度の高い文」とすることが、ここでのねらいです。

もう一つ、内田さんの「セールス○か条」で練習してみましょう。内田さんは「商談のコツ」というリスト項目について、以下の一文に要約しました。

  • 相手の口調の変化に気をつける

意味深長な言葉ですが、残念ながら言葉が曖昧です。そこで内田さんの思いを聞きながら、文章の密度を高めてみましょう。

…………

「内田さん、これは『しゃべり方が早くなったら相手が興味を持っている証拠』とか、そういうことですか?」

「いや、そんなにシンプルじゃないんです。例えば、大事なことほど小さな声になる人もいれば、興味を失った途端に小さな声になる人もいる。だから『気をつける』としか書きようがないんですよ」

「なるほど。でも、そもそもなぜ口調の変化を気にするのですか?」

「そこで商談の流れが変わるからですよ」

「流れが変わる?」

「ええ。それをきっかけにして、そろそろ提案に移ってもいいかなと思えば具体的な提案に移ります。自分では決められない感じだなと思えば追加資料をお送りしましょうかと言ってみたりします。」

「では、こんな感じで言い換えたらどうでしょう?」

  • 商談の流れの変わり目を読むために、口調の変化が参考になる

「そういうことですね。ただ口調の変化といっても微妙なものだし、さっきいったように人によって違うので、意識して話を聞いていないとダメなんですよ」

「それは重要なポイントですね。では…」

  • 商談の流れの変わり目を読むために、わずかな口調の変化が参考になる

「もうひとついえば、口調の変化に気をつけるとは書きましたけど、口調の変化だけじゃないわけですよ。目線の動きだったり手振りからだったりも分かるわけで、「口調」というのは一例に過ぎないというニュアンスを入れられるともっとよいと思います」

「なるほど。これでいかがですか?」

  • 商談の流れの変わり目は、わずかな口調の変化からでも読み取れる

「そうですね。自分の最初の文章と比べると、言いたいことがよく詰まっていると思います」

…………

内田さんはさらに推敲を重ね、以下のようなリスト項目に修正しました。

  • 商談の潮目は、わずかな口調の変化からも読み取れる!

リストの読者を意識して言い換える

内田さんは「商談の流れの変わり目」を「商談の潮目」と言い換えました。潮目や潮時という言葉は会話の流れを示す言葉としてよく使われ、それだけ含みの多い言葉です。ただし、読み手によっては、「潮目」よりも「流れの変わり目」と書いてあった方が意味がよく伝わると感じるかもしれません。

この辺りの兼ね合いはリストの読者として誰を想定するかによって決めます。自分のためのまとめであれば好きな言葉を使えばよいし、社内研修などで若い世代に伝える言葉として作成しているのであれば、受講対象者の何人かに事前に確認しておくのがベストでしょう。

「意味」を重視して言い換える

「流れの変わり目」と「潮目」とを比べてみると、「潮目」という比喩表現の方がちょっと文学的で気が利いている感じがします。意味が同じならば、響きのよい言葉が望ましいのはもちろんです。

しかし、意味のうすい言葉どうしをいくら言い換えても仕方がありません。文の「形式」は、次の【修辞】のステップでばっちり整えることになっていますので、このステップでは、リストに込めたい「意味」を最大限に引き出してリスト項目に盛り込むことを意識してください。

リスト項目間の矛盾を恐れない

第1部の「偶然をチャンスに変える5つのスキル」から、2項目だけ引用します。

  • 失敗にめげずに努力を続けること
  • 自らの状況や態度を変えること

努力は続けろ、でも態度は変えろ?一読すると矛盾しているようですね。

個人的な経験をまとめたリストであったり、できるだけ多くの状況をカバーするように抽象化されたリストでは、こういう矛盾がしばしば生じます。矛盾とまで言わなくても、リスト項目同士で言っていることのつじつまが合わないケースもあります。

しかしここまでのステップを経て要約されてきた言葉ならば、そこには何か意味があるはず。そういった言葉をどう使い分けていけばいいのかがまだ言語化されていないだけだと思います。

ですから、まず本人が分かっていれば、どちらかを捨ててしまったりする必要はありません。でも時間が経つと忘れてしまうので、実際に使いながら、使い分けの仕方を具体化していきましょう。

ちなみに、先ほどのリストはわたしの自作ではありませんが、その背景になっている理論は読んで共感していました。「続けること」と「変えること」の違いをわたしなりに解釈し、【凝縮】したものを再掲します。

  • 目的に対しては【ねばり強く】、
  • 手段に対しては【柔軟に】。