【修辞】読みやすさ・思い出しやすさに配慮する

言葉の意味については、直前の【凝縮】のステップで十分吟味しました。この【修辞】のステップでは、その意味を壊さないように気をつけながら、「形式」つまり読みやすさ・思い出しやすさを高めるための工夫をします。これは「覚える要約型リスト」を作成しているならば、特に重要な作業です。

言葉の表現を豊かにするテクニックは修辞技法(レトリック)と呼ばれます。ここではリスト項目の形式を整えるためにチェックすべきポイントを述べた後、よいリストに用いられているレトリックを見ていきます。

否定と肯定を混ぜない

リストの中に否定文と肯定文の両方がある場合には、どちらかに統一することを考えてみます。

例えば、以下のリストを読んでみてください。

スピーチの心得

  • 沈黙を恐れない
  • 下を向かない
  • 質問は建設的に受けとめる
  • 黙って去るべからず

このリストは3つの否定文と1つの肯定文からなっています。それほど覚えにくくは感じませんが、それは項目が4つと少く、また内容も分かりやすいからです。「〜べし」と「〜べからず」が混じっていると、リスト項目が多くなるにつれて何をすべきで何をすべきでないかが分かりづらくなってきます。 そこで、文章の向き(肯定か否定か)を揃えてみます。

スピーチ四戒

  • 沈黙を恐れるべからず
  • 下を向くべからず
  • 質問を否定的に捉えるべからず
  • 黙って去るべからず

3番目の文章を否定形に直し、語尾を「〜べからず」で揃え、タイトルも「スピーチ四戒」としてみました。

「これだけはしてはいけない」という意識で覚えればよいのですから、スピーチ中も混乱することが少なくなります。語尾を揃えることで読み上げたときのリズム感もでるようになりました。

あるいは逆に、肯定文に直すこともできます。

スピーチに臨むときの姿勢

  • 間を取ろう!
  • 顔はいつも聴衆に!
  • 質問への答えは建設的に!
  • 去るときは必ず挨拶を!

リストの目的を考えれば、こちらの方が優れたリストと言えるでしょう。なぜか? スピーチの直前に「スピーチ四戒」を読み返す自分を想像してみてください。「これはしてはいけない、あれはしてはいけない…」と繰り返し言っているうちに、背中が丸くなってしまいそうですよね。それよりは自分が取るべき態度や姿勢をそのままイメージした方が、イメージトレーニングとして優れているでしょう。

その他にもいくつか形式上の工夫があります。たとえば文末の「!」マークは、自分に勢いを与えてくれます。正しくは「顔はいつも聴衆に『向ける』」と書くべきところを、リズムを重視して切り落としました。

単語の選び方も工夫されています。「スピーチ四戒」では、「沈黙」を恐れるべからずと言いながら、「黙って」去るべからずとも言っています。前者は話している間の戒めであり、後者は壇上から去るときの戒めですので、内容には問題ありません。しかし、一つのリストの中で同じ「黙」という言葉が奨励されたり禁じられたりすると、混乱の元になります。そこで上のリストでは、話している間は「間を取る」、去るときは「挨拶をする」と、別の言葉を当てています。

もちろん、なにがなんでも肯定文または否定文に揃えるべきということではありません。意味が損なわれたり、かえって分かりづらくなるようであれば、変えない方がよいでしょう。

もう一度頭字語に挑戦する

頭字語については【構成】のステップで検討済みです。しかしここでもう一度だけチャレンジしてみてください。というのは、頭字語化することはリストを覚えるためのもっとも強力なツールだからです。

【構成】のところで人間が情報を捉える単位をチャンクと呼びました。頭字語は1チャンクです。

事例研究1:第1部「珠玉のリスト集」で使われているレトリック

言葉を言い換えて印象づける比喩はもっとも普通に使われているレトリックです。例える、擬人化する、仄めかす、大げさに言う、などなど、さまざまな手法があります。

言葉を揃えてリズムをつけるよいリストはよいリズムから。特に、読み上げるためのリストでは、リズムは重要ですね。

前のリスト項目を引き継いで流れを作るリズムが出ると同時に、意味的な流れも生まれます。前辞反復(アナディプロシス)というレトリックだそうです。

リスト項目を重文にして説得力を高める「順接」は、AとBという2つの文を「AだからB」とつなぐことです。これによって1つのリスト項目の中に論理を作ることができます。「逆接」は、「AでなくB」「AよりもB」という形です。ただ「Bである」というだけでなく、「Aではない」という情報を添える。そのことでBが何であるかが明確になります。

疑問文にして考えさせるリストに問いかけさせ、読み手がそれについて考えることを促します。疑問文は、「問いかけ」と「反語」に分けることができます。「問いかけ」は、文字通りの意味。「あと3年で死ぬとしたら、どのような決断になるか?」(「大きな決断をするための、5つの問い」)という問いは中立で、どうするべきを教えてくれるものではありません。一方、反語は主張を持っています。「至誠に悖(もと)るなかりしか(誠意に欠けた事はなかったか)」(「五省」)というリスト項目には、「誠意に欠けたことをしてはいけない」という主張があります。

事例研究2:『意思決定12の心得』

お手本として、当代随一のリスト作者、田坂 広志さんの『意思決定12の心得』を見てみましょう。田坂さんのリストはどれも、ずしんと重いメッセージが簡潔ながら華麗な修辞で彩られています。

意思決定12の心得

リスト項目を重文にして説得力を高める」という修辞技法が使われていることは、すぐに分かりますね。実際、このリストから、「〜ではなく、」という部分を取ってしまったらどうなるでしょうか。例えば、以下の文。

3. 感覚を磨くのではなく、論理で究める

「論理で究める」だけでは何だか分かりませんが、「感覚を磨くのではなく、」という句があることで、これは経験から何を学ぶかについて言っているのだなと予想がつきます。

そして究めた論理をどう伝えるか。

6. 論理を語るのではなく、心理に語りかける

ただ「心理に語りかける」だけですと、これは陳腐になりかねない言葉です。しかし「論理を語るのではなく」があることで、この文章が三つ前の「論理」という言葉を受けていることが分かります(「前のリスト項目を引き継いで流れを作る」)。「たとえ究めた論理であっても、それをそのまま語るな」という心得が、わざわざ目を凝らして係り受けを読解しなくても、リストを上から読み下していく流れの中に感じられます。「語る」から「語りかける」へと、相手に一歩近づく表現に変えている工夫にも注目してください。

「語りかける」というと、つい前のめりに説得しそうになってしまいます。しかしその気持ちで次のリスト項目を読むと、そうではないことが分かる仕掛けになっています。

7. 説得するのではなく、納得をしてもらう

「説得」ではなく「納得」、「する」ではなく「してもらう」。この「納得をしてもらう」という言葉も、「説得するのではなく」という句との対比において深い意味を感じさせるのです。