「守」の次は「破」
「守破離」をご存じのことと思います。武芸の道をきわめる、その道のりを表現した言葉で、現在では学びの段階を示す概念として広く使われています。
学びの「守破離」
- [守]教えを忠実に真似て、自分のものにする
- [破]教えを自分なりに深め、発展させる
- [離]教えを意識せず、自由に振る舞う(しかし、教えはその中に生かされている)
リスト道(?)についても、同じステップを考えてみましょう。
リストの「守破離」
- [守]よいリストから忠実に学び、自分のものにする
- [破]よいリストの精神を踏まえたうえで、自分なりにアレンジする
- [離]リストを自作する(しかし、よいリストから学んだことはその中に生かされている)
こうしてみると、前項の「リストが自分のものになるまで」は、「守」のステップということになります。
「守」の例をもう一つ。第1部で紹介した「指導者の心得(松下幸之助氏)」に、こんなリスト項目があります。
- まかせる(徹底してまかせる)
「徹底してまかせる」と書いてあったからといって、まさか松下幸之助氏が「仕事は部下に丸投げする」ことを持論としていたとは思わないでしょう。
部下にまかせるとは、部下を信じることです。部下を信じるとは、部下にその仕事を任せた責任を自分が負うということです。そこまでの覚悟ができている人であれば、このリスト項目はスッと腹に落ちるでしょう。しかし、なかなかそうもいかないので、たとえば以下のように自分なりの補足を添えてみてはどうでしょうか。
- まかせる(徹底してまかせる。ただし任命責任は自分にある)
- まかせる(=部下が自分の名刺で仕事をすることに等しい)
そのようにして自分なりにリストがよく理解できたと思ったら、次は積極的にアレンジを試みましょう。それが「破」のステップです。
アレンジのためのスキルについては、第3章で詳しく解説しています。また、リストをアレンジして自分なりに消化する例を、第4章で挙げています。特に以下の項を参考にしてみてください。
事例:上手に話を聴くための5つのコツ
「破」の事例として、わたしの挑戦事例をお目に掛けます。第1部で「話を聴くための5つの心がけ」を紹介しました。もともと引用元にあるリストは、こんな感じでした。
上手に話を聴くための5つのコツ
- 受容〜「うんうん」と頷いたり、相づちを打つ。
- 支持〜「そうだね」「それはつらいね」と返す。批判しない。
- 繰り返し〜相手の言葉を繰り返す。「〜なんだね」
- 質問〜相手の気持ちに沿って質問する。話を引き出す。
- 明確化〜「○○と感じているのですね」「要するに□□なんですね」
ヒアリングのテクニック集としてはよいリストです。最初はこのまま引用させていただこうかと思ったのですが、すこし引っかかりがありました。
このリストをフル活用したような聞き方、いや「聴き方」をされて、かえって喋りづらく感じたことはないでしょうか。相手が聞き役に徹してしまい、自分の思いや考えをあまりお話しにならないと、こちらも喋りづらい。
それは当然の話で、相手が腹を割ってくれているという実感がなければ、こちらだって率直には喋りづらいもの。「聴く技術」も、相互の信頼があってこそです。実際、聴き方の本にはだいたいそう書いてあります。ただ、聴く技術を磨こうと一所懸命になってしまうと、つい前段がおろそかになってしまうのでしょう。
リストの内容を損なわず、上のような思いも込めたい。そう考えて「破」ったのが、下のリストです。具体的には、「支持」「質問」を削り(といっても、内容は他のリスト項目にできるだけ重ね)、自分が重要と思っている項目を2つ加えました。
話を聴くための5つの心がけ
- 【受容】頷く、相づちを打つ、先を促す。批判しない。「なるほど」
- 【反復】相手の言葉を繰り返す。「○○、ですか」
- 【具体化】言い換える、まとめる。「それは、〜ということですか」
- 【沈黙】相手のペースを重視。多少の沈黙を恐れない。
- 【応答】質問で話のリズムを掴む人もいる。聞かれたことには素直に答える。
師匠の教えを「破」った(弟子なりに深化・発展させた)からといって、弟子の方が優れているとは限りません。同じように、引用元のリストよりもこのリストの方がよいとは限りません。
しかしわたしにとっては、こちらの方がよいリストです。元のリストを理解した上で自分の考えを盛り込んでいるので、意味が濃いからです。
皆さんもぜひ、気に入ったリストをアレンジしながら、自分にとって役に立つリストを作ってみてください。