言語進化の理論が満たすべき7つの基準


まえがき

『言語が進化したのはなぜかを知ることが絶対に不可能というわけではない。実際、仮説の良し悪しを評価する基準を無理やりにでも設定してやれば、もっともらしさの順に仮説を整理することはできる。』

リスト

あとがき

まえがきを含めて、ケヴィン・レイランド『人間性の進化的起源: なぜヒトだけが複雑な文化を創造できたのか』 (勁草書房、2023年)より。リストは本文からの引用です。

言語の進化がいかに独特なものかがわかりやすく説かれている箇所を引用します。

言語の進化には大転換が必要だったと思われる。それは、互いに独立で生得的な信号を使って行う、「目の前で起こっている具体的なこと」を伝えるコミュニケーションから、学習によって獲得され、社会的に伝達され、はてしなく組み合わせることができる、一般化可能で、柔軟性があり、機能が制限されない、指示的コミュニケーションへの大転換だ。言語学者のデレク・ビッカートンは、「言語はなんらかの先行システムから進化したにちがいないのだが、そのような先行システムがなんだったかは皆目見当もつかない[1]」と、言語進化のパラドクスを見事に表現した。

ではどうするか。仮説の良し悪しを評価する基準を設定することで、最も「もっともらしい」仮説を選ぶわけです。リストの内容がよかったからというよりは、この発想を覚えておきたくて収集しました。「正解などない」と言って思考停止する前にトライしてみたい。

ところでこの7つはどこから来たのか。著者は次のように述べています。

私は、サボルチュ・サマードとイロス・サトマリ[2]、およびデレク・ビッカートン[1]の先駆的研究によって提案された、競合する言語進化理論たちの妥当性を判断する六つの基準に倣うことにした。ここにもう一つの基準を私が加え[3]、あわせて七つの基準を使って、最初期の言語がもっていた本来の適応的意義に関する仮説を評価しようというのがねらいだ。

そして著者は、この7つの基準を満たす仮説として教示仮説というものを支持しています。これは『言語は教示の効率とその適用範囲を向上させるために進化した』という仮説。

単に伝えるのではなく「教える」という文化的な行為が言語を進化させた。mansplaining という言葉がありますが、人が教え好きなのには根深い理由があるかもしれません。

    参考文献

    [1] Bickerton, Derek. Adam’s tongue: how humans made language, how language made humans. Macmillan, 2009.

    [2] Számadó, Szabolcs, and Eörs Szathmáry. “Selective scenarios for the emergence of natural language.” Trends in Ecology & Evolution 21.10 (2006): 555-561.

    [3] Odling-Smee, John, and Kevin N. Laland. “Cultural niche construction: evolution’s cradle of language.” The prehistory of language 11 (2009): 99.

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