まえがき
『彼はまず、徳(徳義)を「モラル」と呼び、「心の行儀」を意味すると言う。これに対して智(智恵)は西洋でいう「インテレクト」で、「事物を考え、事物を解し、事物を合点〔がてん〕する働〔はたらき〕」であるという。(略)智と徳との違いについて五つの基準が挙げられる。』
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- 徳は外の世界とは無関係な形で人間の内面にあるものであるのに対して、智は外の世界に関わり、局面に応じて利害得失を考え、判断を下す働きである。
- 徳の影響力の及ぼす範囲は直接的な人間関係に限られるのに対して、智の影響力は一つの国全体、場合によっては世界全体に及ぶものとなる。
- 徳の内容は文明の違いを超えて古来変わらないのに対して、智の世界はそれまでの蓄積の上に限りなく進歩していく。
- 徳は「学ぶ人の心の工夫」に依存するから外形的に学習の効果を判定することはできないが、智ははっきりした外形的な基準によって学習の達成度を判定することができる。
- 徳は「一心の工夫を以て瞬間に行うべし」であり、心を入れ替えることによって一挙にその境地を一新することができるのに対して、智は長年にわたる学習の蓄積によって初めて可能であり、一度それを手にすれば失われることはない。
あとがき
まえがきを含めて、佐々木 毅『学ぶとはどういうことか』(講談社、2012年)より。福沢 諭吉『文明論之概略』の第六章がわかりやすくまとまっています。
- タイトル: 文明論之概略 (岩波文庫)
- 著者: 福沢 諭吉(著)、松沢 弘陽(編さん)
- 出版社: 岩波書店
- 出版日: 1995-03-16